女性ホルモンの影響
近年、女性の社会進出によって晩婚化し、それによって出産年齢も高齢化しています。
出産年齢が高年齢化すると、乳がんの発生や増殖に深く関係のある女性ホルモン(エストロゲン)の影響を長い間受けることになり、これが乳がんに罹患する方が増え続けている一因と考えられています。
Column
乳がんには、いろいろな種類があります。乳房内のどこでがんができているか、どんな特徴があるかによって分類されています。
乳がんのがん細胞が周囲の組織に浸潤しているかどうかで、浸潤性乳がんと非浸潤性乳がんに分けられます。浸潤性乳がんの大部分は浸潤性乳管癌です。
浸潤性小葉癌は特殊型乳がんの一つですが、特殊がんの中では一番頻度の高いがんです。
※浸潤とは、がん細胞が小葉または乳管の壁を破って周囲の組織に広がることを言います。
※非浸潤がんとは、とても初期のがんのことです。
図.乳腺の構造
小葉癌とは、乳腺の小葉から発生する乳がんの特殊型の一種で、発生頻度は乳がん全体の5~10%と言われていて、50代以上の方に多いとされています。
小葉は乳汁を作る器官で、乳汁は乳管を通って乳頭へと出ていきますので、小葉から乳頭まではつながっています。
小葉にがんができると小葉癌、乳管にがんができると乳管癌と呼ばれます。
小葉癌は、初期段階ではしこりを形成しにくく、ある程度しこりが大きくなった段階で発見されることが多いです。また、他の乳がんよりも両側に発症するケースや両側多発に発症することも多いです。
小葉癌は、乳房の乳腺構造が乱れることでいろいろな症状を示すことも多いですので、日頃のブレストアウェアネスがとても大切です。乳房の左右差を感じたり、皮膚のへこみ、乳頭の陥没などの見た目の変化がある場合は乳腺外科を受診しましょう。
小葉癌の治療に関しては乳管癌と大きく変わらず、切除可能な場合は手術を行い、術後にサブタイプごとの薬物治療を行います。ただし、消化管や腹膜、卵巣などへの特殊な転移をする可能性があるので、術後のフォローアップが大切です。
乳房がチクチク痛む、触ると痛いなど、乳房の痛みを一度は経験したことがある方も多いのではないでしょうか?
では、乳房の痛みの種類やその原因などを見ていきましょう。
乳腺症は、30歳台~40歳台の女性に多く、乳房に痛みやしこりを感じたり、乳頭から分泌物が出たりする疾患の総称です。
乳腺症のチクチクした痛みの原因は女性ホルモンが関係しているとされていて、閉経とともに軽快していきます。
痛みそのものは継続するものではなく、周期的に変化します。
一般的に、排卵後~生理前までの黄体期に痛みが強く出ることが多いです。
図.生理周期とホルモンの関係
黄体ホルモンが多い時期は乳腺が張ります
乳腺炎は、授乳期かそうでない時期かで分類されます。
授乳期では、うっ滞性乳腺炎が多く、乳汁が詰まってしまうことが原因となります。
マッサージで改善する場合がほとんどです(乳瘤)が、なかなか改善しない場合は乳腺外科へご相談ください。
また、化膿性乳腺炎といって、乳頭から細菌が入り、乳腺内に膿が溜まってしまうこともあります。痛みと共に発熱を伴うことが多いですので、早めに受診しましょう。
非授乳期の乳腺炎としては、乳輪下膿瘍や肉芽腫瘍性乳腺炎といったものがあります。陥没乳頭の方は注意が必要です。
乳腺炎の痛みはズキズキと痛いです。痛みを和らげるのには乳房を冷やすのが効果的です。保冷剤をタオルなどでくるんで冷やしましょう。
女性の更年期とは、閉経前の約5年間と閉経後の約5年間の計約10年間を指します。
この閉経に向かう40代後半以降に女性ホルモンのバランスが悪くなると、乳腺症が強く出ることがあります。なお閉経後には症状が落ち着くことがほとんどです。
乳腺症は、年齢とともに現れる乳腺の生理的な変化によって生じるものです。良性の疾患であるため、基本的には積極的な治療も必要ないとされています。
しかし、経過観察を行う中であまりにも症状が重かったり、痛みが続く場合は対症療法を行うこともあります。
乳房内に膿が溜まってしまっている場合は、抗生剤の点滴や排膿(膿を出す)などの処置が必要になります。乳房の強い痛みや発熱がある場合は早めに病院を受診しましょう。
乳腺症や乳腺炎の痛みの違いや治療などを記載しましたが、まれに炎症性乳がんなど、痛みや炎症を伴う乳がんが見つかる事もあります。痛みが続く場合や見た目に変化がある場合などは、放置せずに乳腺外科を受診しましょう。
最近、外出する機会も増え、当院にも外傷で来院される方が増えています。
夏場は肌の露出も多い為、特に注意が必要です。
外傷とは、すり傷、切り傷、骨折、やけど、噛み傷、虫刺されなどがありますがここでは、すり傷や切り傷などの軽度の外傷について記載します。
全ての外傷の処置で共通していることは、患部を清潔に保つことです。
流水でしっかり洗い流し、清潔なガーゼ(無ければハンカチなどの布、ティッシュは×)で傷口を保護しましょう。消毒は必要ありません。
金属やガラス片などによる深い切り傷や刺し傷は止血をしてすぐに医療機関を受診しましょう。また、犬や猫による噛み傷は、ペットであっても感染症の危険がありますので、すぐに医療機関を受診しましょう。
止血する際は、出血している傷口をガーゼやハンカチなどを当て、その上から手のひらで強く抑えてしばらく圧迫します。出血を止めるために手足を細いひもや輪ゴムなどでしばることは、神経や筋肉を損傷する恐れがあるため行わないようにしましょう。
※頭部(打撲)や目の周りの外傷については、専門医の判断が必要になる場合もあるので、脳神経外科や眼科を受診するのをおすすめします。
ここ10年で感染者が増えているのが、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。溶連菌というどこにでもいる菌ですが、まれに強い毒性のあるタイプでは、傷口から体内に侵入し、劇症型感染症を引き起こします。
高齢者に多いですが、50代以下の若い世代でも増えています。昨年は941人でしたが、2024年は6月の時点ですでに1000人を超えていますので注意が必要です。
年 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024(~6/16) |
---|---|---|---|---|---|---|
報告数 | 894 | 718 | 622 | 708 | 941※ | 1060※ |
※速報値
2023年12月に、NPO法人 ふじのくに乳がん交流サロンが設立されました。代表理事は静岡県立静岡がんセンターの西村誠一郎先生です。当院の大澤浩一郎副院長も、副代表理事として参加しております。今回は、ふじのくに乳がん交流サロンのホームページが立ち上がりましたので、理念やこれからの展望などをご紹介したいと思います。
乳がんトータルサポート(乳がんに関わる諸問題の解決)
乳がんで苦しまない社会の実現を目指して
今回、このNPO法人の設立にあたって、第一に静岡県東部地域の乳がん検診受診率の向上を目指しています。乳がんは早期発見、早期治療をすることで完治が可能ながんです。できるだけ多くの方にこの情報を知っていただき、検診を受診していただきたいと考えています。
今後は、乳がん患者さんのおしゃべり交流会や講演会などを開く予定だそうです。新たなイベントの情報など、詳しくは公式ホームページをご確認ください。
2024年度の乳がん検診(沼津市、裾野市、清水町、長泉町)では、少しでも多くの方に乳がん検診を受けていただくために、視触診が廃止になりマンモグラフィのみとなりました。当院では、ブレストアウェアネス(乳房を意識する生活習慣)の啓発に力を入れており、撮影を終えたら約8分ほどの動画を見ていただいています。
乳がんは、自分で早期発見することのできる数少ないがんです。今回の検診で異常が無くても、次の検診までの2年間にがんが発生する可能性もありますので、自分の乳房の普段の状態を知り、変化を早く見つけることが大切です。
動画の中では、実際のブレストチェックの手順を詳しく説明しています。
乳がん検診を受けに来られた方でなくても動画を視聴していただけますので、ぜひ2階の動画視聴コーナーをご利用ください。ご希望の方は受付に声をかけてください。
※6月~11月の検診期間中はお待ちいただくことがあります。
動画視聴コーナーには、乳がんのしこりを触って体験できる「乳がん触診モデル」というものも置いてあります。自分の乳房を触ってもよくわからないという方は一度触診モデルを触ってみてください。
実際に触って、乳がんのしこりを見つけてみてください!
乳がんの「再発」とは、乳がんができ始めた初期の頃からからだのどこかに潜んでいるがん細胞が、後になって出てくることをいいます。手術を受けた側の乳房やその周囲の皮膚やリンパ節に出てくる再発を「局所再発」といいます。
一方、骨や肺など、初めにがんができた乳房から離れた別の場所にがんが出てくることを「転移」あるいは「遠隔転移」といいます。
乳がんの再発は、手術後2、3年もしくは5年前後くらいに起こることが多いのですが、10年後や20年後に現れることもあります。再発の時期は、病気の進行度(ステージ)や乳がんの性質(サブタイプ)によって大きく異なります。
乳がんの遠隔転移は、骨(とくに背骨や肋骨)や肺、肝臓、リンパ節などに起こることが多いですが、その症状は人によってかなり違い、何らかの症状を伴う場合もあれば、全く自覚症状のない場合もあります。
術後の放射線治療や薬物療法が落ち着いたら、定期検査を行います。
当院では、採血で腫瘍マーカーを調べたり、マンモグラフィやCTなどの画像検査を行っていますが、定期的に様々な検査を受けて遠隔転移を早期に発見し、早期に治療を開始しても、症状が現れてから治療を開始しても、全体としての生存期間に変わりはないとされています。遠隔転移が見つかった場合、最新の医療技術や薬でもそれらのがん細胞を完全に消すことは極めて困難なのが現状です。
何か気になる症状があった場合は、あまり躊躇せず、担当医に伝え、その原因を突き止めるための検査を受けるようにしましょう。あまり神経質になりすぎず、バランスの取れた生活を心がけることが肝心です。一方で、反対側の乳房に新たながんができる事もありますので、1年に1回はマンモグラフィを受けることが大切です。
また、閉経前後の方でホルモン療法や化学療法を行っている患者さんは、骨粗しょう症になるリスクが高くなります。当院では、定期的に骨密度の測定も行っています。
再発の治療は、局所再発と遠隔転移再発の2つで大きく異なります。
局所再発の場合は、再発巣を手術で切除した後、必要に応じて放射線治療や薬物療法を行い、さらなる再発を予防します。一方、遠隔転移再発の場合は、がんの治癒を目指すのではなく、がんの進行を抑えたり症状を和らげたりしてQOL(生活の質)を保ちながら、がんと共存するための治療を行います。
当院では、たくさんの方が術後のフォローアップを行っています。近隣の病院で手術を受けたけれど遠くて通いにくい、術後10年を超えたので検診でよいと言われたなど、困って受診される方も多いです。何か困ったことがあればお気軽にお問い合わせください。
出典:患者さんのための乳癌診療ガイドライン
2019年版
乳がんの薬物療法は、乳がんのサブタイプによって治療方針が決まります。
サブタイプは、細胞診または組織診を行い悪性の診断がついたときに追加で調べています。
乳がんは、乳がん細胞の性質ごとに5つに分類されており、増殖力の強さや薬剤への反応性などが違います。同じ乳がん患者さんでも、治療薬や治療期間が異なるのはこのためです。
増殖能 | ホルモン受容体陽性 | ホルモン受容体陰性 | |
HER2陰性 | 低い | ルミナルA | トリプルネガティブ |
高い | ルミナルB(HER2陰性) | ||
HER2陽性 | 問わず | ルミナルB(HER2陽性) | HER2タイプ |
・ホルモン療法 5~10年
女性ホルモン(エストロゲンまたはプロゲステロン)受容体陽性のがんに用いられます。
閉経前は、エストロゲンががん細胞に作用しないようにする薬(抗エストロゲン薬)を服用しますが、脳下垂体を刺激してエストロゲンの生成を抑制する薬(LH-RHアゴニスト製剤)の皮下注射を併用する場合もあります。(2~5年)
閉経後は、脂肪細胞にあるアロマターゼによってエストロゲンが作られます。そのため、アロマターゼにエストロゲンを作らせないようにする薬(アロマターゼ阻害薬)や、抗エストロゲン薬のどちらか一つを選択します。
・分子標的療法 約1年
分子標的薬とは、がん細胞が血管を引き込んだり、分裂増殖をするメカニズムを狙い撃ちする薬のことで、抗がん剤に比べて副作用が少ないと言われています。
現在、HER2陽性の方だけでなく、HER2陰性の方やトリプルネガティブの方にも使用できる薬が多く開発されていて、状態に合わせて選択できるようになっています。
・化学療法(抗がん剤) 3~6か月
女性ホルモンやHER2がどちらも陰性の方(トリプルネガティブ乳がん)や進行再発乳がんの方に使用されます。がん細胞の増殖のしくみに着目して、その過程の一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん細胞だけでなく正常細胞にも影響します。
・術前化学療法 約半年
進行乳がんの方やリンパ節転移陽性の方には、手術の前に化学療法を行うことがあります。
術前に化学療法を行うことで、7~9割の乳がんは小さくなるとされています。
これにより、乳房の切除範囲や、リンパ節の切除などが縮小される可能性があり、手術の負担が軽減されることが期待できます。
HER2陽性の方には分子標的薬を使用します。
☆乳がんの薬物療法について記載しましたが、乳がんの治療薬は日々研究され、新薬が開発されています。標準治療や推奨される薬の選択枝が増えることはとても良い事です。今後も新しい情報があればお伝えしていく予定ですが、個人個人の治療法については主治医とよく相談し、納得したうえで治療を受けることが大切です。
乳がんの確定診断がなされた後は、さらに精密検査を行い、治療計画を立て、どのように治療を進めていくのかを決定します。一口に乳がんと言っても、がん細胞がどんな性質を持っているのかによって、選択する治療が変わってきます。
ステージ0~Ⅰの乳がんではまず手術療法が選択になります。
手術療法には乳房を全部摘出する方法と、乳房を部分的に切除する方法があります。
手術の結果、再発の可能性がある場合は放射線治療や薬物療法を追加で行います。
乳房部分切除術の方や、乳房全切除術(乳房全摘術)の方で再発リスクが高い方は、手術した乳房に放射線を当てます。放射線を当てると、正常組織はダメージを受けた後回復するのに対し、がん細胞はダメージを受けると修復できません。その作用を利用して、目に見えない小さながん細胞をやっつけます。
期間は約1か月~1か月半ほどかかりますが、外来で治療が可能です。
※放射線治療を伴う乳房部分切除術と乳房切除術では、生存率や遠隔転移する可能性などの治療成績に差はありません。そのため、温存可能な場合では、より見た目を損なわない乳房温存術を選択することもできます。また、乳房は全摘出し、再建(シリコンや自分の体の一部を使う)を選ぶ方も増えています。
2023年12月より、早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)が保険適応になりました。腫瘍の大きさが1.5cm以下などの条件を満たせば適応になります。
RFAは、がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波帯の電流を流し、発生する熱を利用して焼灼する治療法で、手術に比べ患者さんの身体への負担が少ない治療法です。2004年より、肝がんに対して多く使用されてきましたが、近年肺がんや骨腫瘍などにも適応が広がってきています。
まだ治療ができる施設が全国で22施設(2024年2月末時点)と少ないですが、乳がんの新しい治療法として注目されています。
どの病気でもそうですが、乳がんにも進行度というものがあり、ステージ(病期)と呼ばれています。そのステージによって、選択する治療が変わってきますので、ここでは、乳がんのステージ分類について知っておいてほしいことを記載していきます。
乳がんのステージ分類は、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移(N)、他臓器への転移(M)という3つの要素を合わせて決定します。
乳がんが疑われる場合、CT、MRIといった画像診断で追加の検査をします。その画像診断でなお乳がんの疑いがある場合、細胞診や組織診をして、乳がんと確定診断がなされます。
手術前の画像診断によっておおよそのステージがわかりますが、手術によって腫瘍を取り除き、近くのリンパ節を調べ終わってからステージが最終確定します。手術前の画像診断において腫瘍が大きく、リンパ節への浸潤が広範囲にわたる場合は、手術よりも先に抗がん剤を投与して腫瘍を小さくすることが必要な場合もあります。
ステージ | 大きさ(T) | リンパ節への転移(N) | 他臓器への転移(M) | |
---|---|---|---|---|
ステージ0 | しこりはふれない (非浸潤がん) |
なし | なし | |
ステージⅠ | 2㎝以下 | なし | なし | |
ステージⅡ | A | 2㎝以下 | あり | なし |
2~5㎝ | なし | なし | ||
B | 2~5㎝ | あり | なし | |
5㎝以上 | なし | なし | ||
ステージⅢ | A | 5㎝以上 | あり | なし |
B | 問わず | 多数あり | なし | |
C | 問わず | 皮膚や胸壁への浸潤あり | なし | |
ステージⅣ | 問わず | 問わず | あり |
5年生存率とは、癌などの病気の予後を予測するために使われる医学的な指標で、診断から5年経過後に生存している患者の比率を示しています。治療効果の判定のために使われることが多いです。
ステージ分類でポイントとなるのは、腫瘍の大きさと、リンパ節や遠隔臓器への転移があるかどうかです。さらに、ステージによって生存率が変わってきます。国立がん研究センターの統計によると、ステージⅠ~Ⅱまでの5年生存率は約95%、ステージⅢになると5年生存率は80%まで下がります。
※ステージ0の方の5年生存率は100%です。10年の相対生存率も100%です。
出典:がん情報サービス
※ネット・サバイバルとは、「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算する純生存率のことです。
2019年の統計によると、1年間で乳がんに罹患する方は9万7千人を超えています。女性の9人に1人が生涯のうちに乳がんになると言われています。
では、乳がんになりやすい人とはどんな人でしょうか?
2022年の乳癌診療ガイドラインによると、以下の項目において乳がんの発症リスクが高くなると言われています。
近年、女性の社会進出によって晩婚化し、それによって出産年齢も高齢化しています。
出産年齢が高年齢化すると、乳がんの発生や増殖に深く関係のある女性ホルモン(エストロゲン)の影響を長い間受けることになり、これが乳がんに罹患する方が増え続けている一因と考えられています。
乳がんの5~10%は遺伝性と言われており、血縁関係のある家族親族に乳がんの患者が多いほど、乳がんを発症するリスクが高くなります。
また、血縁関係のある家族親族に卵巣がんやすい臓がん、前立腺がんの患者がいる方も、乳がんの発症リスクが高くなる可能性があります。当院でも、これらの病気の家族歴がある方には、若いうちから定期的に乳がん検診を受診するようにお知らせしています。
喫煙(受動喫煙を含む)や飲酒をされる方も発がんリスクが高いことがわかっており、特に喫煙においては世界中で研究が行われており、関連性はほぼ確実と言われています。
飲酒に関しても、摂取量が多いほど乳がんの発症リスクが高まることがわかってきています。アルコールを摂取する際は毎日の摂取は控え、ほどよい量にしましょう。
また、肥満の方(BMI 30以上)は様々な生活習慣病のリスクになる事が知られていますが、乳がんの発症リスクも高めることが知られています。日頃から運動をしたり、食事に気を付けて、太りすぎないように気を付けたいですね。
糖尿病の方も乳がんになりやすいことがわかっています。高血糖や高インスリン血症によって様々ながんを誘発している可能性が高いと言われています。
乳がんは一般的に女性に多い疾患ですが、男性の乳房に発生することもあり、日本では2019年の統計では670人の方が男性乳がんに罹患しています。(がん情報サービス 乳房の統計より)
有名芸能人が男性乳がんであることを告白し話題になりましたが、男性乳がんの背景や診断、治療法、などについて見ていきます。
症状としては、乳輪の後部にしこり(腫瘤)、乳頭からの出血、わきのリンパ節の腫れがあります。乳がんのしこりは触っても痛みが無いことがほとんどです。これらの症状がある場合、必要に応じて乳房のエコーやマンモグラフィなどの画像検査を行います。それらの画像検査で異常が認められた場合は、針で刺して組織を採取する生検検査や、病気の広がりを見る造影CT検査などを行います。
男性乳がんに対する治療は、基本的には女性と同じです。乳がんの病期に準じて治療法を選択します。切除が可能であれば手術を行い、病状に応じて薬物療法(抗がん剤やホルモン治療など)も行います。
男性乳がんは、発見が遅れることも多く、生存率が女性に比べて低いというデータがあります。女性の乳がんと同様、早期発見がポイントとなりますので、乳房のしこりなどの症状に気づいたら早めに受診をしましょう。
男性も、女性と同様ホルモンバランスが乱れる時期があります。第二次性徴の思春期と、更年期症状が出やすい60~70歳です。女性のように乳房がふくらんだり、触ると痛いしこりとして認められます。前立腺疾患の治療薬や男性用薄毛治療薬などの摂取、プロテインの過剰摂取などでも起こることがあります。女性化乳房から癌になることもありますので注意が必要です。
乳がん検診にはマンモグラフィと視触診という検査があり、今年度は両方が検査に含まれています。
視診は、乳房の大きさや形、ひきつれ・腫れ、皮膚のただれや異常分泌がないかを医師が目で観察します。
一方、触診は乳房を実際に触ってみて、しこりがないかを判断します。しこりがある場合は、しこりの大きさ、形、硬さ、表面の状態などを確認します。また、乳房以外にも脇の下や鎖骨の上のリンパ節も調べます。
平成27年の厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会中間報告書」において、乳がん検診の視触診については推奨しないと報告されました。そのため、静岡県でも乳がん検診で視触診を廃止する自治体が増え、35ある自治体のうち、視触診を行っていない自治体は24にのぼります。近いうちに沼津市でもがん検診で視触診が廃止になるかもしれません。
視触診を行っている自治体 | 11 |
視触診を行っていない自治体 | 24 |
(2023年度 静岡県)
乳がん検診でマンモグラフィのみとなった場合、視触診は自分で行うこととなります。当院としましても、今後はブレストアウェアネスの励行に力を入れていきます。
視触診がなくなる事に不安を感じる方もいるかと思いますが、2年に一度の検診の時の視触診だけよりも、月に一度のブレストアウェアネスを心がけることの方が効果が期待されます。
ピンクリボンフェスティバルという団体が、毎月19日を「ピンクの日」としてブレストチェックをはじめとしたブレストアウェアネスの推奨を行っています。
ブレストチェックをやるタイミングがわからない、やるのを忘れてしまうという方も多いと思いますので、今後、当院でも毎月19日を「ピンクの日」としてLINEで配信をしていくことにいたします。一緒にブレストチェックをしていきましょう。
※生理がある方は、胸のはりの少ない生理後1~2週間の間に行いましょう。
皆さんは、J.POSH(ジェイ.ポッシュ)という団体をご存知ですか?
ピンクリボンは見たり聞いたりしたことがある方も多いと思います。
今回は、アメリカで発祥したピンクリボンを日本で広めたJ.POSHについてご紹介します。
≪受けよう乳がん検査 乳がん早期発見で笑顔の暮らし≫を合言葉に、「乳がんで悲しむ人を1人でも少なく」を目指して活動されています。
2022年で20周年を迎えられました。
乳がん検診の啓発活動だけでなく、乳がんに起因する困難に対して目を向け、各種助成金、奨学金の提供などをされてきております。
当院でも、その活動に賛同し、毎年マンモグラフィサンデーに参加しております。
今年は10月15日(日曜日)に開催します。詳細はホームページのお知らせページに記載しておりますので、受診を希望される方はご確認ください。
今回は、その活動の一部ですが、身近で素晴らしい取り組みを紹介します。
ピンクリボン温泉ネットワークとは、J.POSH温泉パートナーへの参加を通じ、乳癌患者さんが専用入浴着を着用しての大浴場の利用可能に積極的な施設(温泉地・温泉旅館)の全国ネットワークのことです。
乳がん患者さんのなかには、外見を気にされ、温泉に行くのをあきらめてしまう方がおられます。家族風呂や貸切風呂、風呂つきの部屋もありますし、今回紹介したバスタイムカバーを利用したりといった、入浴の工夫で温泉を楽しめるようになります。
サイト内では、バスタイムカバーの販売や温泉施設向けにポスターの販売も行っています。
ご興味のある方はサイトをご覧ください。
来年の春に、静岡県東部の乳腺関連のNPO法人が立ち上がります。
詳細が決まりましたらまたご報告させていただきます。
乳がん検診を受診したら、通常1~2か月ほどで結果が返ってきます。
2019年の全国の乳がん検診受診者のうち、「要精密検査」と判定されたのは全体の6.3%で、そのうち乳がんだったと診断されたのは精密検査のうちの4.7%と報告されています。
※沼津市では、令和4年度の検診受診率がとても低くなってしまいました。その中で要精密検査の割合は全国データと差はありませんでしたが、精密検査を受けた方の中で乳がんと診断された人の割合は全国データと比べて多かった様です。
「要精密検査」と書かれていたらとても不安になると思いますが、あくまでも「乳がんかもしれない」という段階なので、あまり心配しすぎず、落ち着いて精密検査に臨んでください。
※当院では基本的にはこの順番で検査を行っています。MRI検査やCT検査は、近隣の病院に依頼して検査を受けてきていただいております。
乳腺には、良性の疾患がたくさんあります。精密検査の結果、良性の腫瘤があると診断されることも多いです。場合によっては半年後に再検査ということもありますので、良性であってもきちんと経過観察をしていきましょう。
ブレストアウェアネスと言うと、聞きなれない方も多いかと思いますが、年齢に関係なく、
『乳房を意識する生活習慣』のことをいいます。
自分自身が乳房の状態に日頃から関心を持ち、乳房の変化を感じたら速やかに医師に相談するという正しい受診行動を身につけましょう。
乳房のチェック
着替えや入浴、シャワーなどの際に乳房を見て、触って、感じるということです。
しこりを探すという行為や意識は必要ありません。自分の乳房の感じや月経周期による変化を知っておくことが重要です。
見るときのポイント
鏡に向かって腕を上げ下げし、乳房の変化をチェック
くぼみ
ひきつれ
ただれ
触るときのポイント
3~4本指をそろえて10円玉大の「の」の字を書くようにして乳房全体をチェック
脇の下をチェック
乳首を軽くつまんで異常な分泌物がないかチェック
2にあるような乳房の変化は、すべてが乳がんの症状ではありませんが、気づいた変化ががんの早期の症状の可能性があります。なるべく早く乳腺外科を受診し、適切な診断を受けましょう。
検診マンモグラフィ
乳がん検診の目的は、乳がんを早期に発見し、乳がんで亡くなる女性を減らすことです。現在、乳がん死亡率の減少効果が証明されている検査方法は、マンモグラフィのみです。日本人女性の乳がんの好発年齢が45~49歳と60~64歳ですので、日本では40歳以上の女性に対してマンモグラフィを使用した乳がん検診が推奨されています。
当院でしこりを自覚して乳がんと診断される方の多くは検診を未受診の方が多いです。
乳がんは自覚症状がないまま進行することが多いですので、検診を定期的に受診することが大切です。また、良性疾患や乳がん以外の他の病気である可能性もありますので、何か変化や違和感などがありましたらお早めに乳腺外科を受診しましょう。
当院には、乳腺の認定医に加え、乳がん看護認定看護師、検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師が在職しています。乳腺について気になる事があればご相談ください。
1期で見つければ10年生存率は94%です。*2㎝以下のがん
がん検診とは、がんの早期発見を目的とした検査です。がん検診には、がんの種類によって異なる検査方法があります。例えば、胃がん検診、大腸がん検診、肺がん検診、乳がん検診、子宮頸癌検診などがあります。 一般的に、健康な人でも定期的に受けることをお勧めします。
国立がん研究センターの発表している部位別がん罹患率のデータを見ると、がん検診を行っている部位は、罹患率が高いことがわかります。
なかでも女性の乳がん罹患率は高く、近年増加傾向にあります。数年前までは女性の11人に一人といわれていましたが、9人に一人が乳がんになる計算になります。
一方、部位別のがん死亡率を見ると、乳がんの死亡率は大腸や肺に比べて低いです。
この事から、乳がんに罹患する方は増えているが、乳がんで死亡する方は少ないと言えます。
検診によって早期発見できたら治る可能性が高いのが乳がんですので、40歳を超えたら2年に一度の乳がん検診は必ず受診して、ご自身や家族を守りましょう。
大沢医院は、沼津市、裾野市、清水町、長泉町の乳がん検診実施施設です。受診票が届いたらお早めにご予約の上受診ください。
引用元HP:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」より